大判例

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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)9361号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決要旨〕一、追越のため都電の軌道敷内に立ち入ることは、法の禁ずるところであるのみならず(道路交通法第二一条)、特に敷石の一部に凹凸の個所があることに気付いたような場合には、バウンドのため操継の自由を奪われる危険があるから、これを避けるためにも、迂回して軌道敷外に出るか、或いは一層減速し最徐行で進行すべき義務がある。

二、判示のような板金工の熟練工が事故による後遺症、特に右手の障害が厚因となつて、転職を余儀なくされたこと、その他判示のような諸般の事情を考慮するときは、これに対する慰藉料の額は、金一、〇〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

〔判決理由〕1、ところで、追越のために都電の軌道敷内に立ち入ることは、法の禁ずるところであるのみならず(道路交通法第二一条)、軌道敷内を通行するときには、自動車の車輪かレール上でスリップするおそれもあるから、訴外坪井としては、すみやかに追越態勢を解いて、軌道敷内に立ち入らないようにするか、或は既に立ち入つたときにおいても、減速して徐行しつつ、軌道敷外に出るようにすべきであつた。特に本件のように敷石の一部に凹凸の個所があり、その手前でこれに気付いたような場合には、凹凸によるバウンドのためにハンドルがとられ操縦の自由を奪われる危険があるから、これを避けるためにも、迂回して軌道敷外に出るか、或はより一層減速し、最徐行で進行すべきであつたといわなければならない。それなのに、訴外坪井は前認定のようにこれらの注意義務を怠り、まんぜんと時速四〇キロメートルで軌道敷内を進行したために、本件事故をひき起すに至つたのであるから、右訴外人には過失があること明らかである。(中略)

2、慰謝料(証拠―省略)を総合すれば、原告は、事故当日から昭和三五年四月一三日まで日本専売公社東京病院に入院し、退院後も同三七年一月八日まで通院治療に専念し、その後も湯治等の療養につとめて来たこと、ところが、現在に至るも、なお、右肘関節の伸展度一六〇度、右手関節の背屈一二〇度右手の掌屈一三五度、右手の握力二〇キログラム(健康な左手では、それぞれ一八〇度、一一〇度、一一〇度、三五キログラム)の程度にしか回復せず、それ以上の治ゆは困難と認められるのであつて、右手は概して元気を失い、疲れやすく、疲れれば痛みを訴えてくること、のみならず、骨折した右脛骨下端部も、湿気や寒さにより、或は右足をふんばつたり、五〇ないし一〇〇メートルも歩けば、痛みを覚える状態にあること、更に、事故当時頭部にかなり強度の打撃を受けたために、意識不明のまま入院し、その翌日から意識は回復し始めたのであるが、約二週間ほど言語障害が続き、その後もめまい、頭痛、吐気等に悩まされ、現在でも語尾にやや不明瞭なところがあるうえ、月に五、六回程度はめまいや頭痛があり、仕事を休んで安静にしていること、ところで、原告は、その主張のように一〇数年板金工として稼働し、事故当時には働き盛りの熟練工であつたのに、本件事故によつて右のような後遺症を負い、特に右手の障害が原因となつて、長年身につけた職に従事する道を断たれてしまい、前判示のように転職を余儀なくされたこと、なお、原告は入院時右上顎骨の部位に陥没の所見ありと診断されたのであるが、レントゲン検査の結果骨折していないことが判明し、現在では容貌にもさほどの影響を及ぼしていないことが認められる。原告は被骨部が陥没し、容貌が醜くなつたと主張するが、このような事実を認めるに足りる証拠はない。また証人(省略)の証言によれば被告会社では職員を派遺して一〇数回原告を見舞い、示談の交渉を続けて来たものの、折り合いがつかず、現在に及んでいることも認められる。

以上の事実に、前認定の本件事故の状況等諸般を考慮するならば、原告に対する慰謝料の額は、金一、〇〇〇、〇〇〇円をもつて相当と考える。(佐藤邦夫)

〔説明〕本件事事故は、前行のミゼット車を追い越そうとして、都電軌道敷内に立ち入り、約四〇キロの時速で進行中、敷石の凹凸でバウンド、運転の自由を失い、そのため、車道のかたわらで立ちどまつて、修理しあがつた自動車の点検をしていた被害者原告に追突、余勢で一二メートル余もひきずつた、というので、原告のほうにも、交通量の多い車道上で修理車の点検に従事しながら、同僚に見張りを頼む等事故防止のため万全の措置をとらなかつた過失のある点を斟酌されて、被告の負担すべき賠償額は、認定した損害の七割にとじこめられている。

次に、慰藉料の一〇〇万円は、一五〇万円の請求にたいするもので、このほか、休業損失一〇四万〇五八九円、労働力減少転職による損失一四二万九五三六円(中間利息控除)が認定され、その総額の七割から労災保険金を控除し、結局一九一万円〇二六八円の限度で請求が認容されたものである。

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